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温暖化の放置は正義に反する エコプロダクツ、くまなく普及を――エコプロ勉強会

1011.jpg 10月11日、日本経済新聞社 SPACE NIOで2017年4回目となるエコプロ勉強会を開催しました。エコプロ実行委員長の山本良一氏(東京大学名誉教授)が、地球温暖化の現状とそれをとりまく内外の動き、そしてエコプロ展の意義について解説しました。

 講演の要旨は下記の通りです。

 

続いている「不都合な真実」と「地獄」

 産業、経済において資源の消費は避けられないが、日本のマテリアルフットプリント、つまり資源の消費量は現状、世界平均の2倍と言われる。そして二酸化炭素の排出量について、日本政府は2050年に8割減という目標を掲げている。つまり、日本は資源の利用を今の2分の1に、二酸化炭素の排出量を5分の1にしなくてはいけない。2050年までのわずか30年強で、それだけの大変革ができるのか。その覚悟を日本は突き付けられている。国際社会は「やってみよう」という方向に舵を切りつつあるが、わが国にはまだ躊躇があるようだ。そこが大きな問題だ。

 2006年にゴア元米国副大統領が発表した「不都合な真実」。当時、ゴアさんと対談した際に「2℃削減目標は十分可能ではないか」と話していた。しかしそれから10年が経過してどうなったか。2℃目標達成への道のりは全く見えていない。そして今年、映画「不都合な真実2 放置された地球」が公開される。

 私も2007年から2009年にかけて「温暖化地獄」をテーマにした本を3冊世に出したが、それからの10年間、私たちは時間を空費してしまったと言える。パリ協定やSDGsといった体制の発足はあったが、具体的、根本的な対策はまだ取られていない。

 

「空白の10年」なぜ起きた

 この時間の空費はなぜ起きてしまったのか。

 まずIPCCの第4次報告書(2007年)に「東アフリカの今後数十年での農業崩壊」「アルプスの氷河今後数十年での融解」といった極端な見解が記載され、誤りではないかと議論が起きたこと。これが温暖化懐疑論者、否定論者を勇気づけてしまった。「不都合な真実」も批判の対象となり、これを教材として見せるかどうかで裁判まで起きたほどだ。

 この件で英国王立協会や米国科学アカデミーなどが数年かけて検証を進め、結論としてはIPCCの報告書の主要な内容を支持する形となったが、時間を無駄にしてしまったことは否めない。

 さらにタイミングが悪いことに、この報告書が出たときは、太陽の黒点が減っている時期だった。これによって「太陽黒点減少で宇宙線が増加し、温暖化より寒冷化が来る」という論争が起きてしまった。これも2010年には太陽輝度が最小、地球に入射する宇宙線強度が最大になっているのに地球の表面温度が最大になる、といったことが観測され決着を見たが、空虚な時間を費やした。

 

温暖化は倫理、正義の問題

 1日あたり9500万トンにものぼるCO2排出量を、今世紀後半にはゼロにしなくてはいけない、という現実。もはや小手先の対策では全く役に立たない。革命的な発想がなければ達成できない。

 二酸化炭素は一度放出されれば、一部は数千年、数万年という期間で空気中に残留する。つまり、将来、長い年月にわたって私たちの子孫、ほかの動物、植物に多大な影響を与える倫理的な問題だということも忘れてはいけない。さらに言えば、温暖化は途上国の人たちほどその悪影響が大きい。豊かな地域が温室効果ガスを放出し、貧しい地域がその被害を受ける。これは正義に反するのではないか。ローマ法王も指摘しているように気候変動の問題は倫理の問題であり、正義の問題でもある。

 

相次ぐ異常気象、変化する地球

 2014年、15年、16年と続けて、世界の平均気温は観測史上最高記録を更新した。産業革命前に比べて1.1℃の上昇だ。今年は史上2番目になる、と予測されている。今年、イタリア南部で体感温度55℃に達する「悪魔の熱波」が猛威をふるったが、欧州での異常気象による死者は21世紀までに50倍になるという論文もある。そして15億人の人が暮らす南アジアでは、2015年に熱波で約3500人が死亡した。この地域の人口の30%が、いずれ生存限界に達するとの見方もある。もちろんエアコンがあれば助かるが、外にいることが多い貧しい人が危機にさらされるわけだ。

 世界の海氷面積の年間の変化を調べてみると、2016年は従来の変化の曲線を大きくはずれて減少した。10年、20年先に振り返ったとき、2016年、2017年が大きな転換の時期だったと考えられるようになるだろう。北極海氷研究の第一人者である、ケンブリッジ大のピーター・ワダムズ教授は「北半球が夏の時、宇宙から見ると北極は白色ではなく青色に見える。人類が惑星表面を変えた最初の主要な成果である」と皮肉を込めて語っている。

 夏の北極海氷が減少すると、北極海にこもった熱によってジェット気流の大蛇行が起き、それが大寒波などの異常気象を引き起こすという見方もある。そして南極でも、今年7月にラーセンC棚氷から面積約6,000平方キロメートル、厚さ200メートルの巨大氷山が分離した。

 こうした南北の海氷減少や氷床融解などを考えると、今世紀中の海面上昇は1.5から1.8mにも達することを覚悟しなくてはならない。

 身近なところのデータも見てみよう。気象庁の「記録的短時間大雨情報データベース」によれば、発表回数は2014年に53回、2015年に38回、2016年に58回。だが今年は9月5日段階ですでに86回だ。日本で1時間に100ミリ以上の激しい雨が1年に100回以上降っている。今年の九州北部豪雨の規模の雨が関東で降った場合、荒川の氾濫が懸念されるが、実際に欧州ではテムズ川やセーヌ川の氾濫が起きている。

 これら異常気象の大きな原因として、海面温度の上昇による水蒸気量の増加が挙げられている。今年9月に放送されたNHKスペシャル「MEGA CRISIS」では、豪雨の予報を正しくできない状況について、海上の水蒸気量の把握が困難になっていると解説していた。地球温暖化の進行が、気象の「予測不能」を引き起こしつつある。

 再び世界に目を転じて、直近の異常気象を考えてみると、米国では8月にハリケーン「ハービー」が、2005年の「カトリーナ」を上回る経済的損失をもたらした。続いて「イルマ」が上陸した際には、フロリダ州で630万人に避難命令が出された。8月に発生した南アジア大洪水では4000万人以上が被災した。欧州、北米、南米と各地で大規模な森林火災が頻発している。

 生物の移動も観測されており、ワシントン大学が3000種の生物を調べたところ、米国内ではより北へ、より高地へと移動していることが分かった。東部ではアパラチア山脈が「生物移動のスーパーハイウェー」とも言える状態になっている。

 こうした地球温暖化が進む中、米国ではトランプ政権が誕生し、パリ協定の脱退を宣言した。環境保護局長官のスコット・プルイット氏は温暖化懐疑論者として知られ、次々と温暖化対策の規制撤廃に動いている。もちろん、米国内でもこうした動きに反対の声もあり、多くの企業がパリ協定に残るべきだ、との姿勢を表明するなど、状況は混とんとしている。

 

私たちがすべきこと、エコプロ展の意義

ryoichi_yamamoto.jpg かつて、私は「温暖化地獄」という本を書いたが、もうその地獄の三丁目、四丁目まで来てしまっている。私たちはここからどうすればいいのだろうか。

 それは、環境にやさしい製品やサービスを、世の中にくまなく普及させることに尽きる。そこで1999年にエコプロダクツ展がスタートし、この展示会に来れば未来の暮らしが見える、という場として成長してきた。たくさんの子供たちも見学に来るようになった。2000年には現職の総理である森喜朗氏と環境大臣の川口順子氏が足を運んだ。小池百合子都知事も国会議員時代に何度か訪れているし、毎年政界のリーダーが多数来場している。2008年には秋篠宮ご夫妻がお成りに、そして2013年には天皇皇后両陛下に行幸啓をいただいた。

 ここで皆さんに強くお伝えしたいのは、民間企業の取り組みについてだ。一人ひとりの消費者は、どういう製品を選ぶか、どういうサービスを選ぶか、どういう企業を選ぶか、というように、選択することしかできない。しかし企業は資金力や技術力がある。まず企業が社会的責任を感じて、環境経営を実践し、エコな製品、サービスを提供していただきたい。ぜひ危機的な現状、気候変動のリスクを認識して、経営に生かして欲しい。

 金融の世界では、ESG投資が世界の主流になりつつある。日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に署名したのは大きい。TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の提言では、企業が気候変動をどのようにリスクとして考えているか、どのようなチャンスを生み出せるか、公表するよう促している。それが投資の判断材料になる。

 こうした中、環境省、経済産業省がそれぞれ長期ビジョンを提示しているが、どこで温室効果ガスを減らすか、という点で一致していない。経産省は、もう日本国内では削減の余地は少なく、世界全体での削減に日本が貢献すべき、としているのに対し、環境省はまず自ら削減していくべき、としている。

 パリ協定を受けた民間の取り組みとしては、国際的な共同イニシアティブであるScience Based Targets (SBT)や、事業運営を100%再生可能エネルギーでまかなおうとする組織RE100など、多くの動きがある。現在、SBT認定取得済みの企業は世界で65社、日本は11社だ。RE100には世界で93社が加盟しているが、日本からは2社のみ。もちろん温室効果ガス削減に取り組みやすい業種と、そうではない業種がある。政策面では、そこを分けて考えたほうがよいのではないか。

 スイスのクライムワークス社は、空気中のCO2の回収するという商業プラントの開発に乗り出した。こういう全く新しいビジネスが登場していることも、視野に入れなくてはいけない。

 

まずは2020年、そしてその先へ

 2017年、環境省は炭素税(カーボンプライシング)のあり方に関する検討会を設置したが、その一方で資源・エネルギー庁はエネルギー情勢懇談会を設置し、幅広い見地からエネルギーのあり方を議論しようとしている。日本経済新聞の特集「環境後進国ニッポン」を読んでも、日本が大きく立ち遅れていることは自認せざるをえない。今年3月には東京オリンピック・パラリンピック大会における持続可能な調達コードも公表された。現状、日本は農林水産いずれの分野でも国際的な基準を満たしておらず、大会を支える食料の準備において不安視されているからだ。消費者庁も「倫理的消費調査研究会」の最終報告書を公表し、エシカル消費の重要性を伝えている。9月には「ジャパンSGDsアワード」の公募も始まった。

 まずは2020年の大会における持続可能な調達、気温上昇への対応、そしてCO2排出ゼロを実現するために、全力で取り組んでいかなければいけない。金銀銅のメダルを小型家電から回収した金属で作るエコメダルプロジェクトもスタートした。

 これからも、私たちは全知全能をあげて、地球環境問題に取り組んでいこう。そのために、これからもぜひエコプロに広範な協力をお願いしたい。(2017/11/5・I)

 

 

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