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トランプ政権のエネルギー政策・パリ協定離脱の背景と影響は――エコプロ勉強会

0626_03.jpg 6月26日、日本経済新聞社 SPACE NIOで2017年2回目となるエコプロ勉強会を開催しました。テーマは、パリ協定離脱で注目される米トランプ政権のエネルギー政策です。

 就任前から地球温暖化への懐疑的な姿勢を示し、就任後も温暖化対策を目的とした規制の撤廃に動いてきたトランプ大統領は6月1日、ついにパリ協定からの離脱を表明しました。

 トランプ氏の行動にはどのような背景があるのか。米国はエネルギーや環境についてどのような政策を進めているのか。そして米国のパリ協定離脱は世界にどのような影響を与えるのか。

 エネルギー政策に詳しいNPO法人 国際環境経済研究所所長(常葉大学教授)の山本隆三氏を迎え、解説いただきました。講演の要旨を紹介します。

                   ◇     ◇

誰がトランプを大統領にしたのか

 昨年の大統領選挙と2012年の選挙を比較すると、ウィスコンシン、ミシガン、アイオワ、オハイオ、ペンシルバニア、フロリダの6州が、民主党勝利から共和党勝利に変わっていることが分かる。

 このうちオハイオやペンシルバニアは炭鉱がある地域だ。石炭の生産がさかんな州が常に共和党優位、というわけではない。確かにワイオミング州(西部山岳地帯)などは伝統的に共和党が強いが、東部のアパラチア山脈ぞい、例えばウエストバージニア州はもともと民主党が強かった。しかし2000年ごろを境に共和党優位に変わっている。これは、東部の炭鉱は組合加入率が高く民主党支持に回っていたが、組合の組織力低下や民主党の温暖化対策重視への反発から共和党へと傾いていった、ということだ。

 もしオハイオとペンシルバニアで負けていれば、トランプは大統領にはなれなかった。

2月28日に行われた初の議会演説で、彼がわざわざ炭鉱作業員に敬意を払ったのにはこういった背景がある。

 そしてウィスコンシン、ミシガン、アイオワは製造業がさかんな州だ。2008年のリーマンショック以降、多くの製造業従事者が失業した。その受け入れ先となったのは教育・健康の業界で、具体的には主に介護の仕事だった。

 だが介護の仕事は一般的に製造業よりも給料が少ない。そこに不満が生まれた。彼らにとって「製造業で雇用の拡大を図る」というトランプの言葉は魅力的に聞こえただろう。それは「給料の高い仕事を増やす」と同義だからだ。

 似たような傾向は、英国のEU離脱に際しても見て取ることができた。米英の状況は似ていると言える。では日本はどうかというと、実は日本はもっとシビアだ。

 日本の平均給与は1997年をピークに下がり続けている。やはり比較的給料の高い製造業の雇用は減り、まだ給料の低い介護分野で雇用が増えつつある。ここまでは米英と同じだが、米英は雇用が減ったとはいえ製造業自体が落ち込んでいるわけではなく、そこに「生産性の向上」がある。日本では生産性の向上も見られない。もはや日本の一人当たりGDPは米国の3分の2ほどしかない。かつては米国と並んで世界トップレベルだった特許申請件数も年々落ち込み、急激に成長している中国の4分の1ほどになってしまった。

 

立ちはだかるエネルギーコスト

0626_01.jpg なぜ日本の製造業はこれほど厳しくなってしまったのか。もちろんデフレは最大の要因だ。デフレのために製造業は借入金の減額に力を入れ、その結果設備投資は縮小していった。これが競争力と雇用の低下につながった。

 だがもうひとつ、そこにはエネルギーコスト、という課題があることを指摘したい。

 リーマンショック以降のドイツと日本の輸出額推移を比べると、ドイツが短期間で復活したのに対し、日本は戻りが遅い。また米国と日本の製造業における付加価値額の推移を見ても、日本は震災があったとはいえ伸びの鈍さが目立つ。

 この差を生み出している大きな要因のひとつがエネルギーコスト、要するに電気代だ。ドイツは、輸出産業に対し極端な電気料金の優遇策を取っており、通常は日本よりも高い電気料金が、輸出産業に限っては日本の半分以下の米国並みになる。これによって輸出を伸ばしている。

 日本では震災以降、産業向けでは最大38%、家庭向けでは最大25%電気料金が上がった。ここに大きくかかわっているのが再生可能エネルギーの固定価格買取制度だ。発電促進賦課金はすでに電気代の10%ほどに達している。

 

石炭の生産は増えるのか?

 米国の話に戻そう。

 米国では、全国土の3分の1ほどに天然ガス(シェールガス)が埋まっているとされる。頁岩(シェール)層に埋蔵されている天然ガスであるシェールガスの採掘技術が確立されて、いわゆるシェールガス革命が起きた。しかし、現在シェールガスを商業ベースに乗せているのは米国とカナダしかない。それも米国が9割だ。他の国では試験的な採掘に止まっている。中国の埋蔵量は多いが、ほとんどが山岳地帯のため相当深く掘る必要があり、輸送も困難だ。

 今や米国はロシアを抜いて世界一の天然ガス産出国となった。ガスだけでなく、シェールオイルによる原油生産も伸び、一時はサウジアラビアをしのぐ世界一の産油国になったほどだ。

 では石炭はどうなのか。

 米国の石炭生産は中国に次ぐ規模で、かつては10億トンに達していたが現在は7億トンほど。この減少要因はオバマ政権の温暖化対策ではない。単純に、石炭は天然ガスに比べて価格競争力がないからだ。

 1990年代、米国は発電の半分ほどを石炭火力でまかなっていた。しかし天然ガスの価格下落を受け、2015年には天然ガスによる発電が上回るようになる。市場が出した結論だ。

 トランプ氏は市場主義者であるにもかかわらず、石炭産業の保護のためにいくつか政策を打ち出している。例えば、オバマ政権末期に成立した湧き水保護法や、各省庁が厳しくした環境規制を「議会評価法」によって次々に無効にしている。また、オバマ政権がストップしていた連邦政府鉱区の貸し出しも再開させた。

 だがこれらの政策がうまくいき、ここに来て天然ガスの価格が上がってきていることを考えても、せいぜい石炭生産量は「下げ止まる」程度なのではないか、と米国内のエネルギー専門家は見ている。

 先ほど話したように、製造業が力をつけるためにはエネルギーコストを低く保つ必要がある。欧州でも日本でも、再生可能エネルギー賦課金などがあって電気料金は上がる一方だが、米国ではほとんど上がっていない。これは大きな競争力の源泉であり、トランプ氏もそれは死守したい、と考えているはずだ。天然ガスの価格を高くしてまで石炭を復活させようとはしないだろう。

 

再生可能エネルギー、原子力への取り組み

 再生可能エネルギーはどうか。エネルギー省(DOE)のリック・ペリー長官はテキサス州知事時代、全米でも飛びぬけた規模の風力発電量を達成させた。だから再生可能エネルギーにも理解があるのでは、との声もあったが、今のところはそうではない。DOEは現在、再生可能エネルギーの輸送に既存の送電設備を使っても不安定にならないか調査を進めているが、その担い手は再生可能エネルギー反対派の人たちで、結論は見えている。

 原子力政策としては、80年操業の許可、ZEC(ゼロエミッションクレジット)の推進、使用済み燃料の中間貯蔵施設(テキサス州)建設計画への関与、建設が中断しているユッカマウンテン(ネバダ州)の放射性廃棄物処分場への予算計上などがある。

 現在建設許可が出ている原発はいくつかあるが、設備のコストが非常に高くなっているために、実際には建設されない可能性もある。発電1Kwあたりの建設コストは、石炭は天然ガスのおよそ2倍と言われるが、原子力はさらにその数倍になる。また、同じ原子力でも、大規模な発電所ではなく、ユニット型の小型原子炉(SMR)が主流になるのでは、という見方もある。コスト面だけでなく、事故が起きたときの耐性にも優れているからだ。

 

政策の「見直し」と予算削減

0626_02.jpg パリ協定に基づき、オバマ政権は温室効果ガスを2005年比で26-28%削減するとした。そのための政策の柱が、各州ごとにCO2削減目標数値を設定する「クリーンパワープラン」だ。これについて、トランプ大統領は「数値の見直し」を命じた。本音は撤廃したいのだろうが、二酸化炭素を「有害物質」とする判例があるため、規制はしなくてはいけない。だから見直し、という指示になった。今後の裁判所の判断によっては、クリーンパワープラン自体が無効になるかもしれない。

 もうひとつ「CAFE(Corporate Average Fuel Economy)規制」というのがある。自動車業界に対し、企業別に平均燃費の向上を求めるもので、まさに大統領交代間際に規制値が導入された。これについても見直しに動いている。

 今期、大統領が要求した予算規模は4兆ドルを超えるが、国防や退役軍人に関する予算を除き、多くの省庁予算は減額となっている。特に健康保険やフードスタンプ(生活保護)、学費ローンなどの減額が注目されているが、最も削られたのは環境保護庁で、82億ドルから57億ドルへ、31%もの減額だ。これには役所側も「指示された『見直し』すらできない」と反発している。

 エネルギー省も再生可能エネルギー関連を中心にことごとく減らされている。省エネ製品にマークを表示して推奨するエネルギースタープログラムも廃止となった。実は化石燃料予算も減っている。

 ところで、米国民は自国のエネルギー政策についてどう考えているのか。もちろん、再生可能エネルギーに注力すべき、という声が最も多い。だが石炭の活用を、と考えている人が3割ほどいるとの調査結果もある。

 そして当然のことながら、共和党支持者と民主党支持者でははっきりと意見が分かれる。クイニピアック大学(コネチカット州)の調査では「温暖化は主として人為的原因で起こっている」と考えているのは、民主党支持者では9割に上るが、共和党支持者では3割程度に止まるという。

 

パリ協定離脱、その影響

 トランプ氏は選挙期間中の公約通り、パリ協定を離脱した。各方面に対するその影響は今のところ未知数だ。

 先ほど指摘したように、政策で支援しても石炭の復活は難しい。となると、パリ協定を離脱したからといって石炭の消費が増えるわけではなく、米国の排出削減の取り組みが一気に後退する、とは考えにくい。

 国際情勢の視点で考えると、最も「トク」をしたのはEUだ。オバマ時代、米国は中国との間で環境技術協力に取り組んでいた。これがほぼ白紙に戻ることになるので、早速EUが中国に接近し、環境技術協力を進めようとしている。

 一方で、米国内では地方政府が独自の動きをしており、例えばカリフォルニア州知事が中国を訪れ技術協力を模索する、といった複雑な状況が生まれている。

 日本への影響はどうか。パリ協定に基づく途上国支援資金の負担額は米国が1位(3割)で日本が2位(1割)。ということは、日本の負担増は避けられないだろう。

 

関連リンク

国際環境経済研究所 http://ieei.or.jp/

 

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