SDGs、企業経営の本質として理解を――エコプロ勉強会

column01.jpg 5月19日、日本経済新聞社 SPACE NIOでエコプロ勉強会を開催しました。テーマとして取り上げたのは、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」です。

 2015年9月に国連総会で採択されたSDGsは、2030年までに全世界が達成すべき目標をまとめたもの。貧困の解消、気候変動への対策、クリーンエネルギーの実現といった17の項目で構成されています。

 世界中の政府、企業、市民団体など、あらゆる立場の人々にとっての新たな行動指針とも言えるSDGsについて、国連広報センターの根本かおる所長にお話しいただきました。講演の要旨を紹介します。

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社会を大きく変革する「マスタープラン」

 SDGsは、将来に向かって私たちの社会を大きく変革するマスタープランだ。

 SDGsの前身とも言える「ミレニアム開発目標(MDGs)」は、主に途上国の社会課題(貧困、飢餓など)を念頭に置いていた。先進国はODAなどを通じ「協力をする」という立場だった。

 しかし今、世界は気候変動や格差といった新たな問題に直面している。これらは途上国、先進国を問わない。そこで世界中の人々の暮らしを360度の視点で包括的にとらえ、将来を見据えて作られたのがSDGsだ。

 17もの目標があるのは多すぎると思うかもしれない。だがこれはあらゆる立場の人々、マルチステークホルダーがその策定に参加した結果だ。3年間かけて、政府、企業、市民団体、研究機関などの代表に、若者の代表も加わって議論してきた。インターネットでは世界各地から700万人もの人が意見を寄せてくれた。

 SDGsは2015年9月に国連で採択され、2016年1月から実際の取り組みが始まった。各国政府は順次実施状況を報告することになっており、2016年は22カ国が発表した。今年は44カ国が発表する予定で、日本もそこに含まれる。すでに日本政府はSDGs推進本部を立ち上げ、昨年12月に実施指針も策定した。そのプロセスでもマルチステークホルダーでの議論が重視され、行政や企業の関係者、学識経験者、市民団体の代表などによる円卓会議が行われた。


すべての目標はつながっている

 SDGsには、大きく3つの側面がある。「経済成長」「社会的包摂」「環境保護」だ。昨年、ドイツのベルテルスマン財団が各国のSDGs達成状況を調査したが、日本は17のうち7つもの目標について「達成にはほど遠い」という評価を受けた。貧困の解消(目標1)、ジェンダー平等(5)、クリーンエネルギー(7)、気候変動対策(13)、海の豊かさ(14)、陸の豊かさ(15)、パートナーシップ(17)だ。大変厳しい結果といえる。

 17の目標はそれぞれつながっている、という認識も持って欲しい。例えば「女子教育」という課題を考えてみると、直接かかわるのは教育(4)とジェンダー平等(5)だ。だが教育を受けた女性が成長し、より収入の高い職業を得れば貧困の解消(1)、働きがい(8)といった目標の達成に結びつく。また、そうした女性は子供に栄養のある食事、健康な生活を与えるだろう。これは飢餓の撲滅(2)、健康と福祉(3)だ。格差の是正(10)にもなるし、まちづくり(11)、責任ある生産・消費(12)に貢献するかもしれない。平和(16)にもそうした人材が活躍するはずだ。

 こうしたことから、SDGsではシステム思考、統合思考ともいうべき発想が重視されている。


「誰も置き去りにしない」

 SDGsには「合言葉」がある。それは「誰も置き去りにしない」だ。MDGsのときは、全体の平均を見ていた。特定の層を改善することで、その効果がトリクルダウンして底上げするだろう、とも考えていた。しかし、現実には格差が広がりつつある。そこでSDGsでは、取り残されてしまいがちな人たちに最初から目配りをし、すくい上げるような形で進めていこう、という考え方に変わった。

 開発目標なのに「平和」(16)が含まれているのはSDGsのユニークな点だ。平和でなければ持続可能な開発はできない。逆に、持続可能な開発ができなければ、平和も維持できない。表裏一体のものだからだ。


ビジネスとSDGs イノベーションが援助の現場にも

 少しビジネスの視点からSDGsについて考えてみたい。私は、SDGsを企業経営と分けて考えるのではなく、経営の理念、企業活動の本質的な部分として考えるべきだと思う。例えばファーストリテイリングでは店舗で不要な衣服を回収し、難民、避難民に寄贈しているが、これは単なる援助ではなく、企業の「つくる責任」(12)を全うするものだ。

 今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、持続可能な開発を進めることは大きな経済効果・雇用を生み出すという発表がなされた。SDGsへの取り組みはビジネスチャンスにつながり、それが社会課題の解決にも波及していく。

 SDGsは「変革」のマスタープランだ。2030年にこういう社会にしたい、そのためにわが社の技術でこういうことをします、という、いわゆる「バックキャスティング」の発想をぜひ企業には持っていただきたいと思う。

 そして、先ほども紹介したシステム思考・統合思考で考えて欲しい。

 自分はこれまで、紛争地域の難民キャンプで仕事をする機会が多かったが、そうした地域はほとんどが無電化地域だ。狭い建物の中に密集して暮らし、灯油を使って明かりを取るため、健康被害も懸念される。そもそも灯油の価格が高く、行き渡らない。そこで、こうした地域でソーラーライトを活用する動きがある。これはクリーンエネルギー(7)の取り組みだが、明かりがともることでストレスの軽減、犯罪の防止、トイレにも行きやすくなるといった効果を生み、気候変動(13)はもちろん、結果的に教育(4)、女性に対する暴力の抑止や女性のエンパワーメント(5)にも貢献する。ソーラーパワーという技術ひとつで、さまざまな副次的効果、付加価値を生み、SDGsの複数の目標達成に貢献できる。

 支援の現場では、新しい技術が積極的に取り入れられていることをご存知だろうか。大規模な国際機関では内部にイノベーションセンターを持っていることも多く、企業と連携して様々な取り組みを進めている。

 例えばユニセフでは、物資の輸送が困難な山間地域で、無人航空機(ドローン)を使ってHIV検査キットを届ける、という試みを始めている。

 フィンテックもそうだ。決済の技術が難民支援に応用されている。クレジットカードのようなカードに、その人、あるいは家族が得られる援助の量を情報として持たせ、買い物感覚で自分が必要とする物資を受け取る、という支援の手法がある。効率的かつ公平に援助を行き渡らせるだけでなく、難民にとっても人としての尊厳が守られ、支援に対する満足度が向上する。

 情報へのアクセスも重要だ。携帯電話会社の協力により、各地に散らばった難民たちがショートメールで連絡を取り合ってコミュニティーを維持している。国際連合世界食糧計画(WFP)は、ザンビアで小規模農家と購入者をつなぐネット上のファーマーズマーケットを立ち上げた。

 周縁に追いやられた人たちを、企業の持つ技術によって主流化していく。これは重要な視点だと思う。


認知度向上に向け、継続して努力を

0519_02.jpg まだまだ日本でSDGsの認知度は低い。今年3月に一般社団法人企業活力研究所が発表した報告書によると、日本企業で「SDGsが経営陣に定着している」としたのは25.5%で、欧州企業と比較すると半分以下だった。

 2020年のオリンピック・パラリンピックは重要な節目になるだろう。オリパラはスポーツの祭典であると同時に、環境の祭典でもある。その準備や運営には、持続可能性への配慮が不可欠だ。東京2020組織委員会は今年に入り「持続可能性に配慮した運営計画」「持続可能性に配慮した調達コード」を策定し、さらに5月には国際労働機関(ILO)ともパートナーシップを結んで、働きがい(8)の促進へアドバイスを受けることになった。こうした動きは世界から注目されている。日本が大きな社会変革を成し遂げるチャンスだ。
 
 私たち国連広報センターも認知度向上に向けて努力している。一般市民への浸透を図るため、吉本興業に協力を依頼したところ「持続可能な社会があってこそ、お笑いのようなエンターテインメントも成立する」と快諾してくれた。吉本興業所属のタレントが声で出演する「SDGsのうた」動画は4月の沖縄国際映画祭で上映され、17のゴールをめぐるスタンプラリーなどのイベントも実施された。

 私たちの役割は日本に国連の活動を紹介するだけではなく、日本の動き、優れた取り組みを国連本部、そして世界に伝えていくことでもある。ぜひ皆さんの力を借りて、日本のサクセスストーリーを発信していきたい。

 

関連リンク
国連広報センター http://www.unic.or.jp/

『SDGsのうた』

 

 

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