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働く人、そして地域を「食」で元気に 「食育丸の内」が目指す持続可能社会(エコプロダクツ勉強会)

0731_02.jpg 7月31日、東京・大手町の日本経済新聞社「SPACE NIO」で第2回エコプロダクツ勉強会を開催した。

 テーマは「食で考える持続可能社会」。食に関する様々なプロジェクトを企画・実践し、都心で働く人の健康増進や食材を産出する地域の活性化に貢献している「食育丸の内」のプロデューサー、三菱地所の井上友美氏を招き、その取り組みについて聞いた。

 講演内容の一部を紹介する。

(井上氏の講演より)

 三菱地所では、丸の内、大手町、有楽町合わせて120haの地域にあるビルの約3分の1を所有しており、1998年から再開発に取り組んできた。丸の内はそれまで、完全にオフィスで働く人のための街だったが、この再開発を通じて買い物客や観光客も訪れる街へと大きく変わった。

 2002年の丸ビル開業当時、このエリアで私たちのビルに入居している店舗は280店に過ぎなかった。しかしこれが2013年には970店にまで増加している。店舗とオフィスの複合ビルの場合、飲食店は店舗の2割程度と言われているが、丸ビルでは半数、新丸ビルでも40%を飲食店が占めている。単に数が多いだけではなく、丸の内には情報発信力のある、ユニークなレストランが多く、それが街としての差別化のポイントにもなっている。

 新丸ビルには「丸の内ハウス」というフロアもある。通常、同じフロアにある飲食店はライバル関係になるが、このフロアでは複数の飲食店が共同で空間を形成し、個店という「点」ではなく、フロア全体の「面」で来訪者を迎える。商店街のようなアプローチだ。私は三菱地所に入社してすぐにこのフロアを担当し、各店舗のオーナーたちの発想力、コミュニケーション力に触れ、すばらしいと感じていた。この体験が「食育丸の内」にも生きている。

体験型で楽しく正しい知識を伝える

 「食育丸の内」は2008年にスタートした。なぜ不動産の会社が食育を、と不思議がられることも多いが、わが社は街づくりで社会に貢献するのが使命だ。食を通じて、さまざまなステークホルダーと結びつきながら、持続可能な街、社会を追求できるのではないか、と考えた。

 食育、というと子供向けのイメージがあるかもしれないが、私たちは働き盛りの20代、30代、40代にこそ食の大切さを伝えたかった。日本のGDP(国内総生産)の3割ほどがこのエリアにオフィスを持つ企業から生み出されているという試算もある。まずはそこで働く人たちに、食を通じて元気に、健康になってほしい、という思いもあった。

 スタート以来、2015年3月までに130本の食育イベントを開催してきた。参加者数はのべ30万人にも上る。食育といっても座って勉強するようなものではなく、体験型のイベントを大切にしている。2009年にはオーナーシェフたちの集まり「丸の内シェフズクラブ」も発足してプロジェクトに力を貸してくれている。おいしいランチを食べながら食材や料理について学べる「シェフズランチ」、レストランでシェフ、そして食材の生産者らにレクチャーしてもらう「イートアカデミー」などが好評だ。

 丸の内シェフズクラブには26人ものシェフらが参加しており、服部幸應さんにも会長として協力いただいている。和食やフレンチといった料理のジャンルを超えたシェフの集まりは珍しいのではないかと思う。

0731_03.jpg マルシェも開催している。毎週金曜、東京駅前の行幸地下通路で新鮮な野菜などの食材を販売しているマルシェは出店者も利用者も多い。当初は「丸の内のOLがダイコンを抱えて帰るのか?」と心配する声もあったが(笑)、もはや風物詩のようだ。自治体が参加して、地域内の生産者に消費者とコミュニケーションする機会を提供しているケースもある。

 

地域との連携、カギは「おせっかい」な人

 近年「食育丸の内」では特に地域との連携に力を入れている。以前も、地域と連携したグルメキャンペーンなどは実施していた。これも好評ではあったが、長い準備期間を経ながら、限られた期間その地域の食材を提供するだけで終わるのはもったいないな、とも感じていた。

 そこで私たちは、丸の内のシェフたちと各地に出かけていって、その地域の人たちと一緒に何かをする、という取り組みを始めた。

 2010年から、山梨県商工会連合会と連携し「美味しい山梨をつくるプロジェクト」を続けている。これは、丸の内のシェフと山梨のシェフがチームを組んで山梨県内をめぐり、その上で新たなメニュー開発に取り組む、というもの。話題を呼ぶだけでなく、普段、身近過ぎて気づかない魅力を丸の内のシェフが発見するなど、地元を見つめ直すきっかけにもなっている。

 さらにここで生まれた新メニューは、新たな地域の資源となる。丸の内シェフズクラブの「恵比寿笹岡」笹岡隆次氏が考案した「冷たいほうとう冷麺」は、経済産業省関東経済産業局の地域産業資源活用事業計画に認定され、地元の製麺会社と継続的な商品開発が進行中だ。

 一方、丸の内のシェフたちにとっても、こうした活動を通じて得られた、食材の産地とダイレクトにつながるネットワークは貴重なものだ。また産地の名前を前面に出したメニューは消費者に安心感を与え、結果顧客満足度の向上にもつながる。こうしたWin-Winの関係を築くことが、プロジェクトを継続させていくために極めて重要だと考えている。

 波及効果も出ている。昨年、自発的に「山梨シェフズクラブ」が誕生した、と聞いたときは嬉しかった。また山梨の飲食店をいずれは継ぐことになる若者が、丸の内のレストランで修業したりもしている。人材育成も地域にとっては重要な課題だ。そしてこうした交流によって、私たちは丸の内を全国にPRできる。

 また、食を通じ復興支援に取り組んでいるのが「Rebirth 東北フードプロジェクト」だ。

 震災の1週間前も、私たちは福島県でイベントを開催していた。地震発生直後、シェフズクラブのメンバーから電話があった。「こういうときこそ、地域に恩返しをしなくては」。まだ被災地は物流網も大混乱だったが、日ごろから交流していたおかげでトラックも確保でき、食料を届けることもできた。

 そして復興のステージが進んでからは、より大規模な連携も行っている。丸の内のシェフ、東北のシェフ、そして気仙沼・石巻の水産加工会社が共同で進めている缶詰の開発もそのひとつだ。都心で街づくりをしている三菱地所にとっても、災害時のための食料備蓄としてこの缶詰を活用できる。このモデルは昨年グッドデザイン賞を受賞した。

 もうひとつ、地域との連携の事例を紹介したい。羅臼漁業協同組合と進めている「知床・羅臼昆布UMAMIプロジェクト」だ。

 和食が世界的なブームとなっているが、そのひとつの要因は「うま味」だ。だが一方で、そのうま味を出す昆布など、日本の料理に欠かせない食材の需要が伸びているとは言いがたい。そこで、このうま味の視点から羅臼昆布のブランドを確立しよう、と丸の内のシェフと知床の漁師さんたちと一緒に取り組んでいる。

 実は、料理の専門家でも昆布そのものの生態まではよく知らないケースも多い。そこで現地にシェフたちと行ってみた。すると昆布もさることながら、知床の魚種の豊富さに圧倒され、すぐさまメニュー化に取り組み始めた。こうした光景を目の当たりにすると、現地の漁業関係者も熱が入ってくる。

 逆に、知床の人たちを丸の内にも招くことにも意義がある。現地の生産者が、自分たちの言葉で、羅臼昆布の品質についてレストラン一軒一軒まわって語りかけるのは効果的だった。同時に新たな気付きも生まれる。昆布の生産者は、市場で見かけるような、長くてつややかな昆布を出荷することにこだわりがあるが、そのままでは一般の家庭どころか、本職のシェフさえも満足に扱えないし、価格も高くて手が出しにくい。そうした事実を調理の現場を見たり、消費者と交流することで知ることになる。最初はショックを受けた様子だったが、そうした気付きから、羅臼昆布を手軽に使えるようにした商品も生まれた。

 さらに丸の内を飛び出し、世界へのアピールも始まった。服部幸應さんが生産者の人たちに声をかけ、スペインで開かれる食の世界大会「マドリード・フュージョン」でも羅臼昆布を紹介した。現在開催中のミラノ万博でもPRし、和食の中でも、ダシの存在が大きな注目を集めていることを実感してきた。

 これら、地域との連携を継続させるために重要な点は、その地域にキーマンとなってくれる人がいるかどうか、それも、ある意味「おせっかい」と言われるぐらいアクティブな人がいるかどうかだと思う。私たちは普段東京にいるので、できることには限界がある。現地の人たちと密にコミュニケーションを重ね、とりまとめる人がいてくれたからこそ、山梨でも、東北でも、北海道でもプロジェクトが継続し、成果に結びついた。

「健康」軸に新たな展開


inoue_01.jpg これからの食を考えるとき、重要なキーワードは「健康」ではないかと思う。すでにグルメだけを追及する時代は終わっており、そこに機能性が求められるようになった。

 「食育丸の内」でも、健康について積極的な情報発信を始めた。昨年から始めた「Will Conscious Marunouchi」は働く女性の健康を支援しようというプロジェクトで、「体の中から未来をつくる」をテーマに、飲食店や医療機関などと連携しながら進めている。

 その一環として実施した「まるのうち保健室」は、健康測定と、食生活改善や出産などについてのカウンセリングを行ったもの。計9回行い、1000人以上の働く女性が参加した。会社の健康診断はどうしても男性中心の視点で考えられてしまうので、女性に特化したプログラムを予防医療コンサルタントの細川モモ氏と共に開発した。

 この事業を通じて、働く女性たちの実態がデータとして浮き彫りになってきた。やはり食生活に大きな課題を抱えている。20代~30代女性の1日の推定エネルギー必要量は2000Kcalと言われるが、今回参加した人たちの平均摂取エネルギーは1479Kcal。これは小学生ぐらいの子供が必要とするエネルギー量でしかなく、食べ物の不足していた終戦直後よりも食べていないことが分かった。朝食を抜く人が多いのが原因のひとつだ。

 また、女性の場合は仕事が忙しくなると食べなくなる傾向もあるようだ。逆に男性の場合は、忙しいほど暴食しがち。つまり、忙しくなるほど男性はメタボになるが、女性はやせていく。

 企業がメタボ対策に力を入れるようになった背景には、社員が生活習慣病になると医療コストの負担が大きくなる、ということがある。それならば、女性社員が栄養不足で生産性を下げたり、感染症や不妊症治療のため欠勤が増えることもコストとして意識すべきではないか。もちろん社会全体での損失も計り知れない。

 「食育丸の内」では、こうしたデータに基づき、食を提供する街として何ができるか考えていきたい。「健康」に重きを置くと味が損なわれる、と考える人も多いが、ダシを濃くしてうま味を効かせることで減塩するなど、工夫の仕方はある。

 これまで培ってきたアプローチを生かし、理想的な食生活はこうだ、と押し付けるのではなく、体験型で楽しく学んでもらえるようにしたい。にんべんさんと一緒に、ダシの取り方を学ぶ会なども定期的に開催している。

「まるのうち保健室」2015年も実施

 9月の12日、13日には丸ビルで「Will Conscious Marunouchi まるのうち保健室"わたしのからだと仲良くなる時間"」と題したイベントを開催し、こうした取り組みの結果についてもフィードバックする予定だ。そして10月からは再び「まるのうち保健室」を実施する。

 三菱地所は丸の内だけでなく、東京交通会館や、横浜の商業施設「MARK IS みなとみらい」、大阪のグランフロント大阪といった場所でも食に関するイベントを開催している。ぜひ覗いてみてほしい。

 「食育丸の内」は、日本を代表するビジネスセンターで働く就業者の応援企画であると同時に、日本の食に関する情報を全国、そして世界へ発信するためのプラットフォームづくりだ。そして消費者にも食の楽しさを体験してもらい、正しい知識を次世代まで伝えていただこうという取り組みでもある。これからも様々な人たちとつながりながら、施設を作るだけでなく、食がもたらす価値を生かした街づくりを進めていきたい。

関連リンク

食育丸の内のウェブサイト http://shokumaru.jp/

Will Conscious Marunouchiのウェブサイト(8/31オープン予定) http://willconsciousmarunouchi.jp/

(2015年8月24日・I)

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