エシカルは「第二次精神革命」 山本良一東大名誉教授に聞く

yamamoto2.jpg 「エシカル」という言葉を目にする機会が増えてきた。もともと倫理的、道徳的という意味だが、地球環境にも社会的課題にも配慮した正しい行動を取 ろう、という意味で主に使われている。環境に優しい素材を使ったり、児童労働などを排した製品を積極的に購入する「エシカル消費」はその代表的な例だ。エ シカルを重視した「エシカルファッション」「エシカルジュエリー」などもある。

 今年5月には日本エシカル推進協議会も発足した。その代表を務める東京大学名誉教授の山本良一氏に、エシカルの意義、日本人とエシカルのかかわりなどについて聞いた。


――今、「エシカル」が注目を集めています。先生ご自身は、エシカルの意義をどのようにとらえていますか。

 私なりに言えば、エシカルの動きは「第二次精神革命」です。

  過去1万年ほどの文明の発展を見渡すと、革命と呼ばれるいくつかの大きな変化がありました。まず農耕が始まったこと。そしてそれに続く都市革命。その結 果、貧富の差が生じ、さまざまな社会の矛盾も出現しました。これを受け、様々な思想家が登場し、世界の三大宗教も始まった。これが第一次の精神革命です。 次に来るのが産業革命。科学革命と言ってもいい。

 産業革命によって工業が飛躍的に発展し、文明は地球生命圏の許容できる限界に達してし まいました。こうなっては今の文明を永続させることは難しい。文明と、地球生命圏とが、互いを巻き込んで崩壊する、そんな危険すらあります。そこで必要に なってきたのが第二の精神革命。これがエシカルの動きだと私は考えています。


――その第二次精神革命は、第一次精神革命とどのような違いが?

  第一次精神革命の時期には、まさか地球生命圏全体をおびやかすまでに文明が発達するとは想像すらできなかったわけです。もちろん当時から、自然と共にあろ う、という考え方はありましたが、それは自分たちの住んでいる地域でどのように振る舞うか、という議論でしかなかった。

 米国の科学者、 アルド・レオポルドは1949年の著作で「土地倫理(Land Ethics)」という概念を提示し、人も大地という共同体の一員であると指摘しました。今、地球生命圏と文明との同時崩壊、という危機に直面している私 たちが持たなくてはいけないのは、それをさらに拡大させた「地球倫理(Earth Ethics)」です。これが、第二次精神革命であり、今日的なエシカルの意味です。

 人類が築いてきた文明は素晴らしいものです。地球生命圏を守る、と同時に、私たちの文明も継続させなくてはいけない。宇宙誕生の真実に迫れるような、高度な知的文明を崩壊させるのは、宇宙的犯罪と言わざるを得ません。


――道徳、倫理というと、地域や文化によって異なってくるので、共通認識の形成が難しいのではないでしょうか。

  そう考える人も多いのですが、倫理が文化によって異なる、というのは、必ずしも正しいと言えないのでは。どの文化圏でも、一時的ではなく、長期的に多くの 人に支持され、発展を促してきた価値観には普遍性があります。奴隷解放や男女平等、国民主権......だからこそ、ISO26000(社会的責任に関す る規格)のような国際標準も作成できたのだと思います。

 2012年、ブラジルで行われたリオ+20(国連持続可能な開発会議)でも、貧 困など社会的問題と地球環境問題を同時に解決しようという話し合いがなされました。エシカルはそういう議論も可能にするものであり、国によって意味が変 わってしまうような表面的なものではありません。


――今後、エシカルの意識を高めていくために、どのような手法が考えられますか。

 これはトップダウン、ボトムアップの両方のアプローチが必要です。

 トップダウンとは、限界にきているという事実を示し、国や企業、生活者はこうするべき、という目標を示す方法。これは科学的で、理にかなったものですが、実はそこには大きく欠けているものがある。

 何が欠けているのか。それはデモクラシーです。

  温暖化抑制のために目標を決め、各国に努力を促しても、なかなか思うようには進んでいかない。各地の文化や情勢を考慮しないからです。そこでボトムアップ のアプローチが求められる。参加型の民主主義で盛り上げていくのです。各地で盛り上げていったその総和で、地球環境の許容できる範囲内に文明が収まるよう にしていく。そのガバナンスが大きな課題と言えます。

 これまでは、どうしてもトップダウン、科学者や政治のリーダーシップが重視されて きた感があります。しかし環境問題と、社会的な課題を同時に解決していくためには、ボトムアップのアプローチが不可欠。行政や企業だけでなく、NGOなど 多様な存在、多様な層から行動を起こしていかなくては、実効性は上がりません。


――今年5月、日本エシカル推進協議会が発足しました。

  協議会では8月12日、2020年に東京で開催されるオリンピック・パラリンピックを「エシカル五輪」にするよう、組織委員会に提言しました。東京オリン ピックの計画では環境配慮が明確にされていますが、これを一歩進めてエシカルのモデルケースにしよう、という内容です。2020年、と時間を区切ってさま ざまな取り組みを進めることに意味があると考えています。

 そしてこの提言は、五輪期間中だけでなく、東京という都市自体を「エシカルタウン」にすることも目指しています。実現すれば、エシカルの進展に大きな効果があるのではないでしょうか。

 近年、日本の都市政策では2つの大きな方向性が重視されてきました。ひとつはエコタウン。政府も「環境モデル都市・環境未来都市」構想を進めています。もうひとつは少子高齢化、過疎化といった課題を解決する、福祉都市を目指す動きです。

 これらを統合的に考え、解決を図ろうというのがエシカルタウンです。現在政府が掲げている「地方創生」も、エシカルにつながる部分は大きい。エシカルで国論を統一できる、と私は見ています。


――今後、日本でエシカルは浸透していくでしょうか。

 エシカルの本質はあくまで普遍的なものであり、海外で生まれて入ってきたものではありません。そして、もともと日本人はエシカルなものを大切にしてきた、ということに気付いていただきたい。

  エシカル五輪も、関係する組織がISO26000に定められているような基準に沿って行動しよう、といったことだけでなく、日本の伝統的な考え方を大いに 活用しよう、という点を強調しています。日本には近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」のように、他者や社会へ配慮しつつ行動する 美徳があります。日本に100年以上続く企業が多いのも、社会を大事にしながらビジネスをする、という伝統があるからです。これを発展させて「環境よし、 社会よし、経済よし」を実現したい。

 「おもてなし」にしても、わび茶に見られるように、徹底的に虚飾をそぎ落とし、本当に必要なものだけで豊かな気分にさせてくれる、いわばエシカルなおもてなしが日本の伝統です。


――第一次精神革命は、宗教的リーダーたちの思想や行動によって、そして産業革命は科学技術によって促進されました。第二次精神革命は、何によってドライブされるのでしょうか。

  まだ分かりません。近年、インターネットやソーシャルメディアに膨大な知識・情報が蓄積され、交換されている状態は、物質文明の次のステップとされる 「ヌースフィア(ノウアスフィア、叡智圏)」の発現ではないか、と考える人もいます。いわゆる「ソーシャルビジネス」も注目を集めていますし、そうした分 野が影響力を発揮する可能性はあるかもしれませんね。

(2014年11月4日・I)

 

山本良一(やまもと・りょういち) 1946年茨城県水戸市生まれ。東京大学工学系研究科博士課程修了、工学博士。東京大学生産技術研究所教授を経て現在東京大学名誉教授、東京都市大学教授。国際グリーン購入ネットワーク会長など、多くの団体の役職を歴任。エコプロダクツ展実行委員長も務める。


――今、「エシカル」が注目を集めています。先生ご自身は、エシカルの意義をどのようにとらえていますか。

 私なりに言えば、エシカルの動きは「第二次精神革命」です。

  過去1万年ほどの文明の発展を見渡すと、革命と呼ばれるいくつかの大きな変化がありました。まず農耕が始まったこと。そしてそれに続く都市革命。その結 果、貧富の差が生じ、さまざまな社会の矛盾も出現しました。これを受け、様々な思想家が登場し、世界の三大宗教も始まった。これが第一次の精神革命です。 次に来るのが産業革命。科学革命と言ってもいい。

 産業革命によって工業が飛躍的に発展し、文明は地球生命圏の許容できる限界に達してし まいました。こうなっては今の文明を永続させることは難しい。文明と、地球生命圏とが、互いを巻き込んで崩壊する、そんな危険すらあります。そこで必要に なってきたのが第二の精神革命。これがエシカルの動きだと私は考えています。


――その第二次精神革命は、第一次精神革命とどのような違いが?

  第一次精神革命の時期には、まさか地球生命圏全体をおびやかすまでに文明が発達するとは想像すらできなかったわけです。もちろん当時から、自然と共にあろ う、という考え方はありましたが、それは自分たちの住んでいる地域でどのように振る舞うか、という議論でしかなかった。

 米国の科学者、 アルド・レオポルドは1949年の著作で「土地倫理(Land Ethics)」という概念を提示し、人も大地という共同体の一員であると指摘しました。今、地球生命圏と文明との同時崩壊、という危機に直面している私 たちが持たなくてはいけないのは、それをさらに拡大させた「地球倫理(Earth Ethics)」です。これが、第二次精神革命であり、今日的なエシカルの意味です。

 人類が築いてきた文明は素晴らしいものです。地球生命圏を守る、と同時に、私たちの文明も継続させなくてはいけない。宇宙誕生の真実に迫れるような、高度な知的文明を崩壊させるのは、宇宙的犯罪と言わざるを得ません。


――道徳、倫理というと、地域や文化によって異なってくるので、共通認識の形成が難しいのではないでしょうか。

  そう考える人も多いのですが、倫理が文化によって異なる、というのは、必ずしも正しいと言えないのでは。どの文化圏でも、一時的ではなく、長期的に多くの 人に支持され、発展を促してきた価値観には普遍性があります。奴隷解放や男女平等、国民主権......だからこそ、ISO26000(社会的責任に関す る規格)のような国際標準も作成できたのだと思います。

 2012年、ブラジルで行われたリオ+20(国連持続可能な開発会議)でも、貧 困など社会的問題と地球環境問題を同時に解決しようという話し合いがなされました。エシカルはそういう議論も可能にするものであり、国によって意味が変 わってしまうような表面的なものではありません。


――今後、エシカルの意識を高めていくために、どのような手法が考えられますか。

 これはトップダウン、ボトムアップの両方のアプローチが必要です。

 トップダウンとは、限界にきているという事実を示し、国や企業、生活者はこうするべき、という目標を示す方法。これは科学的で、理にかなったものですが、実はそこには大きく欠けているものがある。

 何が欠けているのか。それはデモクラシーです。

  温暖化抑制のために目標を決め、各国に努力を促しても、なかなか思うようには進んでいかない。各地の文化や情勢を考慮しないからです。そこでボトムアップ のアプローチが求められる。参加型の民主主義で盛り上げていくのです。各地で盛り上げていったその総和で、地球環境の許容できる範囲内に文明が収まるよう にしていく。そのガバナンスが大きな課題と言えます。

 これまでは、どうしてもトップダウン、科学者や政治のリーダーシップが重視されて きた感があります。しかし環境問題と、社会的な課題を同時に解決していくためには、ボトムアップのアプローチが不可欠。行政や企業だけでなく、NGOなど 多様な存在、多様な層から行動を起こしていかなくては、実効性は上がりません。


――今年5月、日本エシカル推進協議会が発足しました。

  協議会では8月12日、2020年に東京で開催されるオリンピック・パラリンピックを「エシカル五輪」にするよう、組織委員会に提言しました。東京オリン ピックの計画では環境配慮が明確にされていますが、これを一歩進めてエシカルのモデルケースにしよう、という内容です。2020年、と時間を区切ってさま ざまな取り組みを進めることに意味があると考えています。

 そしてこの提言は、五輪期間中だけでなく、東京という都市自体を「エシカルタウン」にすることも目指しています。実現すれば、エシカルの進展に大きな効果があるのではないでしょうか。

 近年、日本の都市政策では2つの大きな方向性が重視されてきました。ひとつはエコタウン。政府も「環境モデル都市・環境未来都市」構想を進めています。もうひとつは少子高齢化、過疎化といった課題を解決する、福祉都市を目指す動きです。

 これらを統合的に考え、解決を図ろうというのがエシカルタウンです。現在政府が掲げている「地方創生」も、エシカルにつながる部分は大きい。エシカルで国論を統一できる、と私は見ています。


――今後、日本でエシカルは浸透していくでしょうか。

 エシカルの本質はあくまで普遍的なものであり、海外で生まれて入ってきたものではありません。そして、もともと日本人はエシカルなものを大切にしてきた、ということに気付いていただきたい。

  エシカル五輪も、関係する組織がISO26000に定められているような基準に沿って行動しよう、といったことだけでなく、日本の伝統的な考え方を大いに 活用しよう、という点を強調しています。日本には近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」のように、他者や社会へ配慮しつつ行動する 美徳があります。日本に100年以上続く企業が多いのも、社会を大事にしながらビジネスをする、という伝統があるからです。これを発展させて「環境よし、 社会よし、経済よし」を実現したい。

 「おもてなし」にしても、わび茶に見られるように、徹底的に虚飾をそぎ落とし、本当に必要なものだけで豊かな気分にさせてくれる、いわばエシカルなおもてなしが日本の伝統です。


――第一次精神革命は、宗教的リーダーたちの思想や行動によって、そして産業革命は科学技術によって促進されました。第二次精神革命は、何によってドライブされるのでしょうか。

  まだ分かりません。近年、インターネットやソーシャルメディアに膨大な知識・情報が蓄積され、交換されている状態は、物質文明の次のステップとされる 「ヌースフィア(ノウアスフィア、叡智圏)」の発現ではないか、と考える人もいます。いわゆる「ソーシャルビジネス」も注目を集めていますし、そうした分 野が影響力を発揮する可能性はあるかもしれませんね。

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