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水素、新たな社会システムとして活用を(第1回エコプロダクツ勉強会)

0619_1.jpg 6月19日、東京・大手町の日本経済新聞社「SPACE NIO」で第1回エコプロダクツ勉強会を開催した。

 テーマは「水素社会実現へのロードマップと課題」。講師に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部 燃料電池・水素グループ主査の横本克巳氏を迎え、水素エネルギーの活用について現在の開発動向や今後の課題などを聞いた。

 約1時間の講演の後、30分以上にわたり参加者との間で自由に意見を交わした。講演内容の一部を紹介する。

(以下、横本氏の講演より)

 これまで、水素は主に産業用途で使われてきたが、今後は家庭用燃料電池や燃料電池車、あるいは水素による発電といった、生活者からも見える領域での活用が期待されている。

 水素は使用時に大気汚染物質や温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーであり、化石燃料だけでなくバイオマスなど複数の資源から製造可能で、しかも多様な需要に対応できる柔軟性も持っている。

 日本は30年以上、水素の研究開発に取り組んできた。豊富な経験と知見が蓄積されており、強みを発揮できる分野だ。世界の水素に関する特許のうち、半数以上を日本が有している。また水素の活用にはわが国の産業を支えてきた中小企業の技術も大いに生かせると考えている。

 では具体的に何を進めていくのか。代表的なのはエネファーム(家庭用燃料電池システム)、燃料電池車、大規模発電の3つだ。


エネファーム機器の価格は4分の1に

 エネファームの利用が広がれば、エネルギー輸送によって生じるロスを少なくでき、社会全体のエネルギー利用効率を高めることができる。当然、それに伴うCO2の削減効果も期待でき、エネファームが530万台普及すれば、年間で700万トンのCO2削減効果がある、という試算もある。これは2005年の日本のCO2排出量の0.5%だ。大規模な発電所からの供給と、こうしたエネファームをうまく組み合わせるのが望ましい。

 NEDOとしてもエネファームの大規模実証実験をメーカー各社と協力しながら進めてきた。この結果、10年間で機器の価格は4分の1ほどまでに低下し、累計販売台数は10万台を超えた。とはいえ、まだ最も安いものでも160万円程度。さらなる低価格化のためには技術的アプローチ、特に触媒の低白金化と耐久性を両立させるための基盤的研究が不可欠だ。海外展開など、市場の拡大も有効だろう。

水素ステーション、科学的根拠で規制の見直しを

0619_3.jpg 燃料電池車については、メーカー各社の努力によって実用化が進んでいる。エネルギー各社とも協力し、4大都市圏を中心にインフラとしての水素ステーションを設置する動きも始まった。NEDOとしては、さらに基盤研究を進めるとともに、バスの運行や水素ステーションを通じた実証実験を手がけてきた。

 2015年6月現在、国内で稼働している水素ステーションは23カ所。今年度末までに81カ所が設置予定だ。必ずしもガソリンスタンドのような形にこだわるわけではなく、移動式のものや、小型のもの検討されている。

 水素ステーション普及のためには、規制の見直しも不可欠だ。これはだいぶ進んでいるが、我々としては必ずしも緩和を要求しているわけではない。科学的根拠に基づいた規制にすべき、という立場だ。その科学的根拠を示すために、NEDOは九州大学に水素材料先端科学研究センターを設置し、水素物性・材料強度のメカニズム研究と高信頼データの収集を進めている。

 ただ、実際に水素を生活の場に普及させていくとき、最も高いハードルとなるのは「社会受容性」の向上だ。水素にはまだ「危険」というイメージを持つ人も少なくない。これについては、情報を積極的に公開していくことが重要ではないか。

 海外ではどうか。ドイツは国を挙げて取り組んでおり、日本に追いつこうとしている。すでに15カ所の水素ステーションが稼働し、2015年末までに50カ所稼働させる計画と聞いている。米国ではカリフォルニア州が先行し、水素ステーションを設置している。韓国でも取り組みが始まった。

 もちろん日本だけ、あるいは各国が独自に取り組んでも普及はおぼつかない。大事なのは国際連携だ。NEDOは各国政府による交流会議「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)の議長(2013.5~2015.4)を務めており、各国が共同で水素ステーション信頼データベースを構築してはどうか、といった提案も行った。

社会システムとしての水素活用

 水素社会の実現に向け、エネファームが「ホップ」、燃料電池車が「ステップ」とすると、「ジャンプ」は何だろうか。大型車・バスや重機(フォークリフト)などはすでに実用化が見えている。電車を走らせる実験も行われた。発電所を動かすことも想定している。

 最終的に水素を使う部分だけでなく、水素のサプライチェーンも考えなくてはいけない。海外で水素を製造し、輸送する方法について技術開発が進んでいる。技術的には、液化水素状態での輸送や、有機ハイドライド(トルエンを水素と反応させ、メチルシクロヘキサンとして貯蔵)による輸送などがある。

 イタリアは、すでに水素発電所の実証実験が行われた。民間のプラントメーカーが約1年稼働させたが、現在は止まっている状態。同じ轍を踏まないよう、大規模発電に取り組む際には水素のサプライチェーンを確保する必要がある。

 発電に関していえば、水素による電力貯蔵技術にも注目が集まっている。再生可能エネルギーの固定価格買取制度が、地域によっては昼間の電力供給が需要を大きく上回ってしまう、といった理由で転機を迎えているのはご承知の通りだ。柔軟化二次エネルギーとして、電力をためやすく、運びやすいという水素の特徴を活かすことができると考えられる。これについては欧州で実証事業が進行中であり、NEDOでもまだ小規模だが取り組んでいる。

 水素社会は、すべてのエネルギーを水素でまかなうというものではない。再生可能エネルギーを最大限に活用しつつ、新たな社会システムとして水素を導入していく、という姿勢が重要だ。より大きな視点で考え、議論していきたい。トヨタ自動車が水素に関する特許の公開に踏み切ったように、私たちも、仲間を増やすことに力を入れ、広範な連携のもとに進めていきたいと考えている。

絶え間ない研究開発

 NEDOの新しい取り組みでは、今年新たに「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業」をスタートさせた。これには具体的な目標があり、現在おおむね5000から1万時間弱と言われている自動車用燃料電池の耐久性を5万時間程度にまで引き上げることを目指している。また、走行距離も10万キロ、トラックやバスなど大型車向けには100万キロ走れる燃料電池を作ろうとしている。同時に、コストも下げていく。そのためには量産技術の開発が必要だ。

 他にも、長年取り組んできた耐久性迅速評価方法の確立や、業務用システムの実証評価、高圧水素用のホースなど樹脂・ゴム材料の開発、安全・安心を確保するための水素ステーション管理手法など、多様な課題に取り組んでいる。6月9日には、海外で水素を製造・貯蔵・輸送し、日本国内で活用する大規模な水素エネルギー利用システムの技術開発プロジェクト開始を発表した。

 NEDOの研究については「水素エネルギー白書」やウェブサイト「水素エネルギーナビ」も参照いただきたい。8月31日・9月1日には横浜で「燃料電池・水素技術開発成果報告シンポジウム」も開催する。(2015年6月30日・I)

関連リンク

水素エネルギーナビ http://hydrogen-navi.jp/

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